文:CoC
第8回口頭弁論が、2014年10月6日13時15分すぎから東京地裁第721号法廷において開かれました。この日は関東地方を台風18号が直撃し、交通機関には混乱が続いていましたが、それにもかかわらず傍聴席は7割ほど埋まりました。
1.口頭弁論~岡本取締役の証人尋問実現へ
この日は、前回裁判までで双方の主張は出揃ったということで今後の証人尋問の進行について裁判所の判断が示されました。
・双方の主張
原告側は、原告側証人として原告の安世鴻さん夫妻を、被告側証人としては、写真展中止の過程を明らかにするには役員の尋問が不可欠として、岡本恭幸取締役(当時)と木村真琴代表取締役(当時)を求めていました。これに対して被告側は、被告側証人については取締役ではなく担当の社員に客観的事実を確認することでこと足りると主張し、当時のニコンサロン担当社員Mと写真展当日の現場責任者であった社員Oを求めていました。
・裁判所の判断
裁判所は、原告の主張通り役員の尋問の必要性を認め、岡本取締役を証人として認めました。しかし、木村代表取締役については岡本取締役の話を聴くことで十分であるとして認められませんでした。また、社員Mについても証人尋問が認められ、社員Oについては岡本取締役の尋問で十分として認められませんでした。被告側は、当日の手続きの説明には社員Oの証人尋問が必要として証人に加えることを再度主張しましたが、今回は認められませんでした。次回裁判では証人となることが決まった岡本取締役の陳述書が出される予定で、次々回以降証人尋問が始まります。
・過剰な警備
また、今回は、最近の裁判では混乱がないにもかかわらず、廷吏が傍聴席の左右から傍聴者を監視し、裁判終了直後に傍聴者に速やかに退廷するよう命じるなど、過剰な警備が復活していました。
2.報告集会
裁判終了後、弁護士会館で報告集会が行われました。冒頭に安世鴻さんから、台風の中傍聴に来ていただきありがとうございます、と挨拶がありました。
①弁護団による裁判解説
まず、弁護団の李春煕弁護士が、「今回の裁判で岡本取締役が証人として認められたことにより、次回以降面白い展開になった」と感想を述べた後、裁判の解説を行いました。
・「表現の自由」についての意見書
原告側は今回、芸術家・表現者の意見書を3通提出しています。この意見書の中では、写真家の樋口健二氏が芸術家にとって表現の場が奪われることの意味について、アートディレクターの北川フラム氏が芸術祭や展覧会運営に関わる者の立場から、小説家の赤川次郎氏が表現者の立場から表現の自由について意見を述べているということです。
・ニコン「トップ3」の中止決定までの動きが次第に明らかに
被告側は今回、本来被告ではない社員Mと社員Oの陳述書を提出していました。ここから写真展の中止決定までの具体的事実の一端が明らかになってきたということです。2012年5月21日にニコンに最初の抗議メールが届き、翌22日には中止が決定しましたが、この間何があったか明らかにすることがこの裁判の目的の一つです。22日13時から取締役会議が行われ、14時から社長も参加した会議で中止が決定したことはこれまで明らかになっていましたが、今回の陳述書では、それ以前の早い段階から社長・副社長・会長が危機感を持っていることが明らかになりました。写真展開催可否をめぐり、社長自らが情報収集を行い、韓国人女優をCMに起用したことに対してロート製薬に抗議が殺到した事件などを調べ、それらを念頭においていたことなどが明らかになり、ニコンの「トップ3」がニコンの利益や会社防衛を重視した判断を下した可能性が高いことが示唆されているということです。
続いて、岩井信弁護士が、本裁判では会社としてのニコンの責任だけでなく、当時の取締役個人の責任も追求していることを確認した上で、上場企業の役員を裁判に呼ぶことは簡単ではないが、写真展の中止には担当役員の判断が必要で、この判断の「おかしさ」は役員本人でなければ聞くことができないということを意見書で主張し、岡本取締役の証人尋問が認められたことを説明しました。そして、ニコン側が証人に社員を主張しているのは現場の大変さを印象づける意図があると考えられるが、今回被告側が提出した社員の陳述書からも中止の判断にはトップダウン的な要素が強いことが明らかであり、このことから裁判所はトップを証人尋問が必要と判断したと期待したい、と述べました。
②安世鴻さんから
原告の安世鴻さんは、今回意見書を書くにあたって当時のことを振り返ることが多かったといい、写真展中止の理由を明らかにしたくて今日まで来たと述べました。さらに、表現者は表現を見てもらう場がなければ見る人との関係を作れず、裁判を通じてこの問題を問いたいと訴えました。
3.おわりに
今回の裁判では、ニコンが写真展を中止する決定をするに当たって、ニコンの利益や企業防衛の論理を重視していたことが明らかになってきました。もちろん企業にとって利益は大事です。しかし、世界的大企業と言えるニコンには社会的な責任があります。それを自覚していたニコンは社会的責任として「写真文化の普及・向上」を謳いニコンサロンの運営をしていたのではないでしょうか。ニコンいわく、ニコンサロンは「プロ・アマの壁を取り払い、企業戦略に影響されず、あらゆる分野の優れた作品の展示場として写真展本来の姿を追求する」場所なのだそうです(ニコンHPより)。しかし、本裁判でニコンは、ニコン独自の判断で写真展の開催可否を決められると主張しています。実際に安さんの事件で恣意的に写真展の内容に介入しており、これは明らかに表現の自由を犯す行為です。表現の自由は文化にとって欠かすことのできないものです。これでは文化の向上どころか、それを破壊する行為をしているといってもよいでしょう。いまやニコンは写真文化の向上には興味のないことを宣言したも同然なのです。もし「写真文化の普及・向上」という言葉ですら利益の手段としようとしているのだとすれば、これは呆れるほかありません。ニコンは「リスク管理」の名のもと、歴史修正主義者やレイシストたちの「抗議」に屈して重要なものを失ったというしかありません。ニコンが写真文化の重要性を真に認識するならば、自らの誤りを認めるしかないのです。
表現の不自由展
今回報告集会の参加者から、いま暴力を使って表現者を潰すことが横行しているが、ニコンは表現の場を奪われるという意味では我々と同じ立場に立てる可能性もあったのに、表現の場を奪う側にたった、という意見が出ました。また、表現の自由を問う機会が何か持てないのか、という意見も出ました。支援の会では、この裁判を機会に、日本社会に表現の自由を問うべく、「表現の不自由展~消されたものたち」(2015年1月18日~2月1日、於:ギャラリー古藤)を開催予定です。ぜひご参加ください。